社労士によくある質問 労働保険・労災保険・雇用保険 ②
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育休中に副業・兼業をした場合、育休は継続させても大丈夫でしょうか。また、本業や副業で働いたとき、育児休業給付金についてはどのようになりますか。
回答: 副業したからといって育児休業が終了するなどといった事にはなりません。
ただし育児休業給付金についてですが、育休中に本業で一時的・臨時的に働く場合、就業日数が10日を超え、かつ就業時間が80時間を超えるときは育休給付金は不支給となります。この範囲内であっても、賃金と給付金とが調整され、給付金が減額支給となる場合もあります。
副業の場合において、就業日数や就業時間は本人の自己申告により算定します。賃金については、雇用保険の被保険者となっていない事業所(副業先)から支払われた賃金は含まない点に注意が必要です(「育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金の支給について」リーフレット)。
定年年齢前に早期定年退職制度の利用を考えているのですが、失業保険(基本手当)の所定給付日数はどのように扱われるのでしょうか。
回答: 基本手当は、離職理由が自己都合の場合と、解雇や倒産など会社都合で「特定受給資格者」に該当する場合とでは、所定給付日数に大きな差が生じます。
定年退職で離職した場合については、人員整理等で退職勧奨を受けた者が希望退職を選択したなら特定受給資格者の所定給付日数、通常の定年年齢に達した場合や退職金上乗せ等の優遇を伴う早期退職は、自己都合での退職と同様の所定給付日数が適用されます。
ただし、上記の退職は「本人の責めに帰すべき重大な理由」はなく、「正当な理由によらない離職」でもないものですので、2か月間の給付制限は適用されないと考えられます。
当社を副業先として働いている者(業務委託)がいるのですが、当社への移動中に万が一ケガを負ったとき、労災保険の特別加入をしていないと保険給付は受けられないのでしょうか。
回答: 就業場所間の移動も通勤に該当する可能性があり、この移動は第2の事業場への通勤であることから、第2の事業場で処理することとなります。
特別加入自体は任意であり、加入を希望する者の申請に対して所轄の都道府県労働局長が承認することで保険として開始されます。
副業であれば本業で健康保険に加入していると考えられます。健康保険の給付は、「労災保険から給付がある業務災害以外」の場合について行います。通勤災害も労災保険の保護の対象ですので、労災保険給付が優先するという扱いです。
業務委託が適正な請負かどうかという問題はあり保険者の判断にはなりますが、健康保険の対象となることはあり得ます。
社員が社用車で外回りしている時に交通事故に遭いました。幸い軽い事故だったので、その後も会社は休まず仕事をしています。労災保険との関係においては自賠責保険を優先しますが、労災保険ではどのような処理をする必要があるのでしょうか。
回答: 今回のようなケースにおいて労働基準監督署は、原則として自賠責保険等の支払いを労災保険給付に先行させるよう取り扱うとしています。
ただし、労災保険給付の請求権を行使するか否かは本人の意思に委ねられるべきものです。
労災法規則の規定に基づき、第一当事者等から労基署長に対して、第三者行為災害届の提出を義務付けています。労基署が第三者行為災害に該当する旨を把握した場合においては、労災保険給付請求書の提出に先立って、又は請求書と同時に第三者行為災害届を提出するよう第一当事者等に指導することとしています。
なお、第三者行為災害届を提出する必要がないケースとしては、軽度の交通事故の場合で、自賠先行の手続きをとり、被災状況等から判断して自賠責保険の金額以内で処理されることが確実な事案、というものがあります。
雇用保険において、社員の退職手続きを進める際に深く考えずにハローワークで離職票の発行をお願いしてきました。離職票の交付の有無等を本人に確認できるまで手続きを放置すれば問題が出てくる可能性もありそうです。
手当を受給しきれなかったなどという事態になったとき、何らかの責任を負うことになるのでしょうか。
回答: 退職した者が雇用保険から失業時の基本手当を受けようとするとき、現在は離職票をハローワークに持っていく必要があります。
退職時の手続きとして、事業主は退職の翌日から起算して10日以内に、離職証明書等の書類とともに雇用保険の被保険者資格喪失届を、ハローワークに提出することが原則です。退職する者が離職票の交付を希望しないときは、離職証明書を添付する必要はありません。なお、離職日に59歳以上の時は、本人希望の有無にかかわらず離職証明書を添付する必要があります。
基本手当を受給できるのは、離職日の翌日から起算して原則1年間です。ハローワークの手続きが遅れれば、所定給付日数を受給しきれないこともあり得ます。
離職票は失業給付を受けるうえで必須のものではなく、厚労省は身元確認書類および退職した事実が分かる書類(退職証明書等)を持参のうえ、住所を管轄するハローワークへ早めに相談するよう求めています。
離職票交付遅滞に係る債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない、とされた例があります。離職者は、離職票の交付より前に求職の申し込みをし、基本手当を受給していたもので、離職票が交付されなかったことが、基本手当受給の弊害になったとの事情はないとして、損害(基本手当を受給しきれなかった損害)との因果関係を否定しています。
なお、雇用保険業務取扱要領では、離職者がハローワークに直接離職票を請求すれば交付される場合があるとしています。
離職票交付希望の欄は、退職者の希望に従いきちんと記載すべきものと考えます。
労災保険の通勤災害について疑問が出てきました。自宅を出発したが忘れ物を取りに帰る途中のケガと、出勤途中に体調が悪くなって急遽欠勤すると会社に連絡してから帰宅する途中のケガは、どちらも通勤災害となるのでしょうか。
回答: 通勤災害の対象となる通勤とは、「労働者が就業に関し、住居と就業場所などを往復するための移動を、合理的な経路及び方法により行うこと」としています。
「就業に関し」の意義としては「労働者が業務に従事することになっていたか否かが問題」になります。出勤途中に引き返したことは、会社の就業に必要なものを忘れたことに気づき、自宅に撮りに帰るための行為であると判断できるとして「就業関連性」を認めた通達があります。経路が逸れたものの来た道をそのまま戻るような場合、経路の逸脱はないと考えられます。
一方、病欠で休む等によりその日出勤しないことが確定してからの帰り道ですが、こちらは「就業に関し」の要件を満たさないと考えられています。
業務中のケガで社員が休業しました。終業時刻間際だったので1日目は賃金のカットはしませんでした。2日目は休業補償(平均賃金の60%)を支払ったところ、「会社の責めによる休業だから、休業手当も支給すべきだ」と言っています。
二重で支払う義務はないと思いますが、どのように考えればよいのでしょうか。
回答: 併給は不要というのが常識的な結論ですが、その根拠となると確たるものがないのかもしれません。確認のために2つの条文を併記してみます。
「業務上の傷病による療養のため、労働できず賃金を受けない場合、休業補償」の支払い義務が生じます(労基法76条)。一方「使用者の責めによる休業の場合、平均賃金」を支払う必要があります(労基法26条)。支払うべき金額はどちらも平均賃金の60%です。ただし休業手当については、「休日と定められている日については支給する義務は生じない」とされています。
労災補償制度は「無過失責任と賠償額の定率化を主要な特徴」としています。雇用に起因する傷病(業務災害)が発生すれば使用者は一定率で算定される補償の義務を負いますが、休業補償に関しては「労務不能」が条件の一つとなっています。
一方、休業手当は「使用者の責めによる休業」か否かが支払いの要否を決める基準となります。使用者の責めに帰すべき事由とは「使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く、不可抗力によるものは含まれない」と解されています。
「業務災害」と「使用者の責めによる休業」とは定義の仕方が異なります。さらに労基法26条に関しては「休業とは、労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、労働の意思を持っているにもかかわらず、その給付(働くこと)が不可能となった場合」と定義されています。
休業手当は「労務の提供可能」が前提条件になっているので、休業補償と同時に支給要件を満たすことはできません。労災保険から休業補償給付を受けている期間も同様に休業手当の請求はできません。
自宅の最寄り駅まで自転車で向かう途中でケガをした社員がいます。会社にはバスを使っての通勤経路を届け出ていました。この場合は労災保険は使えず健康保険で処理することになるのでしょうか。
回答: 「通勤」とは「労働者が住居から就業場所への移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有する者は除く」とあります(労災法7条2項)。
会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない、と通達にはあります。合理的なルートは複数あり得るということです。
会社が認めた経路ではなくとも、合理的な経路に該当する可能性はありますが、ただし経路は手段と合わせて合理的なものであることを要する、ともしています。
通勤災害と認められるかは自転車で通るルートにもよるでしょう。通勤災害については労災保険からの給付が健康保険に優先ということになります。
介護離職することになった社員がいるのですが「介護が落ち着いたら教育訓練給付をを使って社労士を目指す」と言っています。
給付を受給するには、離職後(資格喪失後)いつまでに受講を開始する必要があるのでしょうか。
回答: 一般教育訓練に対する教育訓練給付金の支給額は、受講費用の20%(上限10万円)となります。原則の支給要件は、教育訓練を開始した日である「基準日」までの間に、同一の事業主の適用事業に雇用された期間が3年(初回は1年)以上あることです。
さらに基準日に一般被保険者または高年齢被保険者であるか、一般被保険者等でなくなった日から1年以内に基準日があることも必要です。つまり資格喪失後は1年以内に教育訓練を開始しなければならないということです。
この1年については延長措置が設けられています。その対象となる理由は、妊娠、出産、育児、疾病、負傷、介護のほか、配偶者の海外勤務への同行なども該当します。引き続き30日以上教育訓練を開始することができない場合、当該理由により開始できなかった日数分の延長を受けられます。延長期間は原則の1年と合わせて最大20年間です。
社員が業務中にケガをして休業することになりました。休業の最初の3日間は待期期間として扱われ、労災の休業補償給付は支給されないとのことですが、労災保険について注意すべきことは、どのようなことがあるのでしょうか。
回答: 休業補償給付は、業務上の負傷又は疾病による療養のために労働することができない場合において、賃金の支給を受けない4日目から支給されます。つまり最初の3日間は給付を受けられず、これを待期期間といいます。
この待機期間は、3日間連続している必要はないのですが、労基法上の休業補償(平均賃金の60%)は会社が支払わなければなりません。
被災当日は、所定労働時間内に発生した場合は待期期間に含めます。残業中だった場合は含めません。会社の所定休日など労働義務のない日も待期期間としてカウントします。通院などがあって一部労働となった場合でも待期期間に含めます。
社内で社員同士のけんかが発生したのですが、労災になるのかどうかはよく分かりません。労災でなければ健康保険の第三者行為災害になるのでしょうか。
回答: 通達では他人の故意に基づく暴行による負傷は、故意が私的怨念に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを「除き」、業務又は通勤に起因するものと推定するとしています。
健康保険は、業務災害以外の傷病等に関して保険給付を行います。療養の給付等に係る事由が第三者の行為によって生じたときは、被保険者は遅滞なく、保険者に対して第三者行為災害の届出を提出する必要があります。
労働者が労働災害「その他の就業中」における負傷により休業した時には、労基署へ死傷病報告書の提出が必要です。業務上災害に該当するかどうかは後日、相当日数を経てから判明することも少なくないことから、判定以前であっても報告義務を課しているものです。
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