社労士によくある質問 社会保険・健康保険・厚生年金 ②
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定年退職後、再雇用により報酬が変動する場合、社会保険の資格の同日得喪が可能とされています。それと同時に随時改定の要件にも該当するときは、どのように処理したらよいでしょうか。
回答: 結論として、同日得喪を優先させます。60歳以上の者で退職後継続して再雇用される者は、使用関係が中断したものとして、資格喪失届と取得届を提出させる取扱いとして差し支えないとされています。
届出は義務ではなく、提出するメリットとして、以前は傷病手当金を受給しているケースがありました。標準報酬の見直しによって傷病手当金の金額も変動してしまったためです。現在は受給中に報酬が変動しても、支給開始日の標準報酬月額で固定されます。
自己都合により退職する社員がおり、社会保険は配偶者の扶養に入るとのことですが、一方で雇用保険における基本手当の受給を希望しているようです。基本手当の給付制限期間中でも、社会保険の被扶養者となることはできるのでしょうか。
回答: 基本手当の待機期間中や給付制限期間中は給付を受けられないので、その間は被扶養者になれます。
被扶養者となるには、主として被保険者に生計を維持されていることが要件となります。その基準として、被保険者と同一世帯の場合は、年収130万円未満(60歳又は障害者の場合は180万円未満)、かつ被保険者の年収の2分の1未満とされています。
年収は、過去の年収ではなく被扶養者に該当する時点及び被扶養者認定日以降の年間の収入見込み額をいいます。年収には給与収入のほか、基本手当のような失業給付も含まれます。その他には事業収入、家賃収入、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金が挙げられます。
一方、退職金などの一時的な収入は恒常的に受けられないので、ここでいう収入には含まれません。
社員から「65歳以降も働き続けたく、年金の繰下げ受給を考えているが、どのくらい年金が増額されるのか」と相談を受けました。65歳以降に受給権が発生した後も働き続ける場合、年金はどのように計算されるのでしょうか。
回答: 老齢厚生年金は、繰下げの申出をすることにより受給額を増やせます。基本的には加算額は老齢厚生年金の額(加給年金等を除く)に、増額率を掛けて求めることができます。増額率は0.7%×受給権発生月~繰下げ申出月の月数で計算し、最大で120ヵ月分の84%となります。
受給権発生後、年金をもらわずに繰下げ申出をして、厚生年金の被保険者として働く場合は、その期間について調整が行われます。
加算額の対象は、仮に受給権発生時から年金を受給していたと考えた場合に在職老齢年金制度を適用したとして、支給停止にならなかった部分です。
支給停止が発生するのは、総報酬月額相当額(標準報酬月額と、その月以前1年間の標準賞与額の12分の1、の合計)と基本月額(年金の12分の1)の合計が50万円を超えるときですので、これに該当しないのであれば、全て加算額の対象となります。
退職する社員から、退職後の社会保険について相談を受けました。方法としては、家族の扶養に入る、任意継続被保険者となる、国民健康保険被保険者となる、があると思います。被扶養者となるのが1番だとして、次点としては、任意に脱退ができ保険料に上限がある任意継続被保険者がよいでしょうか。
回答: 任意継続被保険者は、標準報酬月額の上限が30万円で頭打ちとなる仕組みがあります(健康保険組合の場合、異なる取扱いもあるため要注意です)。一方の国民健康保険料は市区町村ごとに定められています。
国保では、解雇等で失業した場合の保険料について、失業の翌年度末までの間、前年所得のうち給与所得を30%として計算するとしています。
非自発的失業者の場合は、任意継続被保険者よりも安くなる場合があるので、市区町村へ確認された方が良いでしょう。
当社は年2回賞与を支給しており、現在休職中の社員にも支給します。その社員は傷病手当金を受給していますが、賞与と傷病手当金は調整されるのでしょうか。
回答: 傷病手当金は、業務災害以外の傷病(一般的には私傷病)で療養のために労務に服することができないとき、連続3日の待機期間を経過したあと支給対象となります。1日あたりの支給額は、原則として支給開始日の以前12ヵ月間の標準報酬月額を平均した額を30日で割って、3分の2を掛けた額となります。
ただし、この額には調整が入ることもあり、報酬の全部または一部を受けることができる場合、その間は傷病手当金を受給することができません。報酬より傷病手当金の方が高い場合は、差額が支給されます。
ここでいう報酬とは、賃金、給料などいかなる名称であるかを問わず、労働の対償として受けるすべてのものをいい、臨時に受けるものと3月を超える期間ごとに受けるものを除きます。
よって年2回の賞与は調整の対象外となり、受給中の傷病手当金に影響は及びません。
テレワークのためのレンタルオフィス、サテライトオフィスの利用料を会社負担として検討中ですが、この場合の利用料は健康保険法上の報酬に該当するのでしょうか。
回答: 社会保険料の算定の基礎となる報酬や賞与は、労働の対象として受けるすべてのものをいうとされています。
例として、解雇予告手当など労働の対償として受けるものといえないものや、出張旅費といった事業主が負担すべきものを社員が立て替えて実費弁償を受けるものなどは、報酬等に該当しません。
事業主の許可のもと、社員が勤務時間中にレンタルオフィスなどを利用した場合、その利用料については、事業主が仮払いし、かつ社員に領収書などを提出させ清算していれば、社会保険料・労働保険料の算定の基礎に含まれないとしています。
事業主が仮払いするのではなく、社員が立て替え払いするケースも同様です。
2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大するようです。対象となるのは、被保険者の総数が常時50人を超える場合ということですが、ここでいう被保険者はどのような者を指すのでしょうか。
回答: 使用する被保険者の総数が常時50人を超えるかどうかの判定は企業ごとに行います。同一の法人番号を有する全ての適用事業所の被保険者をカウントします。被保険者数に関して条文では「特定労働者」という規定になっています。
厚労省は、適用事業所に使用される厚生年金の被保険者の総数で判断し、今回の適用拡大で被保険者となる短時間労働者や、70歳以上で健康保険のみ加入しているような者は含めないとしています。
年金の支給繰上げについて社員から相談を受けました。減額されるデメリットの他に、どのような注意点があるでしょうか。
回答: まず繰上げ請求は、老齢基礎年金と老齢厚生年金をセットで行わなければなりません。年金額は1ヵ月繰り上げるごとに0.4%減額されますが、他にも障害年金への影響があります。
例えば障害基礎年金は、初診日が65歳前であることが要件です。しかし繰り上げて老齢年金の受給権を有する者は、60歳以上65歳未満の初診日要件は適用されません。
他にも60歳以上65歳まで国民年金の任意加入もできないこととなります。
大学在学中の20歳から22歳まで国民年金保険料を納付していない期間があります。未納期間があるため年金額が少なくなると聞きましたが、この分を埋める方法はあるのでしょうか。
回答: 老齢厚生年金は、適用事業所に雇用され被保険者となっている期間が、年齢に関係なく年金額に反映されます。
他方、老齢基礎年金は原則として20歳から60歳までの480月間(40年間)が被保険者期間となり、60歳を超えて働いていたとしてもその超えた期間は被保険者期間とはなりません。
480月の保険料納付期間があれば老齢基礎年金は満額となりますが、未納期間があるとその期間に応じて減額されます。
そのため当分の間、厚生年金から経過的加算というものが支給されます。60歳以降も働き続ければ、国民年金の被保険者期間がその分長くなったと仮定した場合に得られる老齢基礎年金額との差額に相当する額を、65歳からの老齢厚生年金に加算するものです。
傷病手当金を受給している高齢の社員がいますが、在職老齢年金との調整は行われるのでしょうか。また、退職する場合に、任意継続加入の有無とは関係がありますか。
回答: 傷病手当金と報酬との調整は健康保険法108条に規定があります。108条5項では、老齢を支給事由とする年金給付等と調整する旨を定めています。ただし、この調整の規定は、104条の規定により傷病手当金の支給を受けるべきものに適用されます。
104条は被保険者資格喪失後の継続給付です。引き続き同一の保険者に任意継続加入させるかどうかは関係ありません。
在職中は総報酬月額相当額に基づいて、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止されます。
休職で報酬がなくてもその時点で標準報酬月額等は変わらず、引き続き年金は調整されます。報酬の低下を補填するのが傷病手当金ということとなります。
在職中、傷病手当金と老齢年金の調整が行われることはありません。
入院中の社員が退院し復職するのですが、病状の悪化で入退院を繰り返す可能性があるとのことです。傷病手当金は通算化しましたが、通算1年6ヵ月以外に、支給期限などは設定されているのでしょうか。
回答: 2022年から同一の疾病又は負傷等において、傷病手当金の支給期間が通算して1年6ヵ月を経過した時点までとなりました。
通算1年6ヵ月に達する前に労務可能となった場合に、いつまでなら次回の受給が可能かに関しては、期限は設けられていません。
法改正に先立ち、社会保障審議会医療保険部会でも「通算化により延長されうる支給期限については、共済組合と同様に限度を定めず、文書により確認できる範囲内で対応する」と示していました。
なお、通算は同一の疾病などに限ります。医師から全治とされ療養を中止し、自覚症状などなく勤務に服した後の健康状態も良好な場合など、社会通念上一度治癒したとされるときは、その後の再発は別の疾病となり新たな傷病手当金の対象となります。
遺族年金を受給している子育て中の社員から、自分が亡くなったら現在小学生の子供に年金が支給されるはずだが、その後に離婚した前夫が子供を引き取った場合、年金は前夫が受け取ることになるのか、と相談がありました。どのように考えればよいのでしょうか。
回答: 遺族基礎年金は妻が死亡した夫に対しても一定の要件を満たせば支給されますが、離婚により夫のいない妻が死亡した際に18歳未満の子がいると、子に受給権が発生します。
その後に前夫が子を引き取っても、前夫に受給権が移行することはありません。ただし、それにより子が前夫と同居し生計を維持されると、年金の支給が停止されます。両親が離婚して夫婦関係が解消し、母親が子の親権を取得していた場合でも父親と子の親子関係は解消しないため、「生計を同じくするその子の父」がいる場合に該当するからです。
仮に他の者と養子縁組をすると実の親子と同じ扱いになり、直系の血族や姻族が養親の場合を除いて子の受給権は消滅します。消滅しない場合でも、養親と生計が同一だと支給停止となります。
当社では現在、各種手当の見直しを検討しています。社会保険料の計算において住宅に関してですが、住宅手当を支給する場合と、アパートなどを借り上げて社宅として貸与する場合で、どのような違いがあるのでしょうか。
回答: 住宅手当は、その支給額の計算の基礎が、月に対応するものであれば報酬の範囲に含まれます。
社宅の貸与は現物給与に当たります。「報酬又は賞与の全部または一部が、通貨以外のもので支払われる場合においては、その価額は、その地方の時価によって厚生労働大臣が定める」とされていて、告示が出されています。
現物給与の価額から徴収額(自己負担額)を差し引いた額が、現物給与の価額になります。すなわち、畳1畳当たりの価額以上の金額を徴収していれば報酬には算入されません。
居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接室、仏間、食事室など居住用の室を対象とします。
足立区・荒川区・草加市・八潮市・越谷市・三郷市の社労士 神楽社会保険労務士事務所です。
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