社労士によくある質問 社会保険・健康保険・厚生年金 ①
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パートやアルバイトの社会保険加入要件である、週20時間の計算は「労働契約上の所定労働時間」によるとのことですが、予定していなかった残業によって20時間を超えた場合、加入しなければなりませんか。
回答: 健康保険法では、被保険者から除外する者として、1週間の所定労働時間が20時間未満であること、としています。
所定外の残業が続き、残業代が当初の見込みを大幅に超えた場合について、標準報酬月額を訂正できるか否かは、固定的賃金の算定誤り等があった場合には訂正できるが、残業代に代表される非固定的賃金については訂正できないとされています。
所定労働時間と被保険者資格の関係について厚生労働省のQ&Aでは、「実労働時間が連続する2カ月において週20時間以上となった場合で、引き続きその状態が見込まれる場合は、実労働時間が週20時間以上となった月の3カ月目の初日に、加入の対象となる」とされています。
産前休業中の女性社員がいるのですが、社会保険料免除において、出産予定日より出産日が前後した場合の取り扱いはどのようになりますか。
回答: 健康保険・厚生年金保険において、産前産後休業中の保険料を免除する仕組みが設けられています。事業主が年金事務所に申し出ることによって、産前産後休業開始月から、終了日の翌日の属する月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)までの期間の保険料が免除されます。
出産日が予定日より早くなった場合、あくまで現実の出産日以前42日間が産前休業になるので、結果的に産前休業期間が短くなります。産後休業も同様に、現実の出産日後56日間が産後休業になるので、こちらも短くなります。
出産日が予定日より遅くなった場合、出産予定日以前42日間に、予定日から現実の出産日までの日数をプラスした日数が産前休業となります。産後休業は、現実の出産日後56日間が産後休業となるのは変わりありません。
どちらの場合においても、産前産後休業の期間に変更があったときは年金事務所へ届け出る必要があります。
図でみると分かりやすいので、日本年金機構のウェブサイトをご参照ください。
外国人労働者も厚生年金に加入する必要があるようですが、長期間滞在しないケースも多いと思われます。その場合、保険料は掛け捨てになるのでしょうか。
回答: 外国人が日本で事業主と使用関係が生じたときは、その発生した日から健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。
老齢厚生年金を受給するためには最低10年の被保険者期間を要するので、年金給付を受けることができないケースもありえます。
そこで短期滞在外国人の被保険者向けに「脱退一時金」制度があります。被保険者期間が6カ月以上ある外国人が出国後2年以内に請求することで、標準報酬月額の平均額に一定の支給率を乗じた金額を、一時金として受給することができます。
ただし、国によっては「社会保障協定」により年金加入期間の通算ができる等、日本とその国との間で独自のルールが設けられていることもありますので、事前の確認を要します。
退職後も引き続き傷病手当金を受給する予定の従業員から、いつまで受給できるのかと質問がありました。退職後の「労務不能」の判断はどのようになされるのでしょうか。
回答: 傷病手当金は、療養のため労務に服することができないとき、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、支給されます。
被保険者が退職した後であっても、1年以上継続して被保険者資格があれば、本来受け取れる通算1年6カ月を上限に受給することができます。
在職中は、「今まで従事している業務」ができるか否かを判断します。一方、退職後に関しては、「工場または事業場において従事していた当時の労務に服することができないものと同程度のもの」としています。
つまり退職前後で判断基準の変更はない、ということです。
在宅勤務の導入によって通勤手当が減額されました。これまで標準報酬月額が2等級変動する従業員がいなかったのですが、残業代などの手当も減ったこともあり、対象者があらわれました。通常の随時改定の対象となるのでしょうか。
回答: 在宅勤務制度の導入により、通勤手当が一部減額されても、その一部を通信費や情報通信機器の費用負担に代わる「在宅勤務手当」等に充当する例もあるようですが、ご質問のケースでは、固定的賃金(通勤手当)の減少に加えて残業代が減少することによって、2等級の変動があったということになります。
賃金体系そのものを変更して実費分のみを支給する方法に変更した場合に、随時改定の対象とするとした年金機構の疑義照会や、通勤手当が廃止となった場合に、通常の随時改定の対象となるとした標準報酬月額の特例改定に係るQ&Aがあります。
すなわち、在宅勤務により通勤手当の減額があった場合は、固定的賃金の変動と判断する、というのが正当のようです。
パートやアルバイトに精勤手当を支給するとした場合、このような非固定的賃金の新設は随時改定の対象とならないということでよろしいでしょうか。
回答: 固定的賃金の変動が条件かどうかについて、厚労省の事務連絡では、非固定的賃金が廃止された場合に関して、「非固定的賃金であっても、その廃止は賃金体系の変更に当たるため、随時改定の対象となる」としています。
通常、随時改定の起算となる月は、原則「一の給与計算期間全てにおいて固定的賃金の変動等が反映された報酬が支払われた月」とされています。
一方で賃金体系の変更を契機とする場合の「継続した3カ月」の起算となる月は、手当等の支払いの有無にかかわらず、当該手当が新設された月としています。
つまり、非固定的賃金の新設による制度変更から3カ月間をみる、ということです。
仮に従業員を解雇し、その後裁判で解雇の有効性を争い解雇無効と判断された場合、社会保険料の支払いはどのようになりますか。
回答: 結論から言うと、遡及して社会保険料を支払う必要があります。
解雇の場合、その翌日に被保険者資格を喪失します。裁判中や仮処分申請中だったとしても、労働基準法等に反していないことが明らかである限り、資格を喪失したものとされます。
解雇が無効になった場合については、遡及して資格の喪失を取り消されます。このため社会保険料も徴収の対象となり、事業主及び従業員に支払い義務が生じます。
一方、裁判所の仮処分において解雇が無効になったものの、最終的には解雇が有効となった場合、その間に事業主が支払った社会保険料については、還付請求もできます。
これらの取り扱いは、健康保険と厚生年金保険で差はありません。
従業員の不適切な行為が発覚したことから、減給の懲戒処分を行いました。減給後の給与を計算していくと、結果的に標準報酬月額の等級が2等級変動することになりそうです。
このような減給制裁においても随時改定の対象となるのでしょうか。
回答: おさらいですが随時改定は、①固定的賃金に変動がある。②変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業代なども含む)の平均にあたる標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じる。③各月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。これらの3つを満たすときに行います。
降格などを伴わない懲戒処分による減給は、3カ月以上であっても「固定的賃金の変動」にはあたらないとされているので、随時改定の対象とはなりません。無給の停職処分も対象外です。
一方で、降格処分となり役職手当等が支給されなくなるなどの固定的賃金が変動するケースでは、随時改定の対象となります。
私傷病による休職を予定している従業員がいるのですが、休職中の社会保険料について、賞与で一括して支払うことはできるのでしょうか。会社が立て替えておいて、賞与からまとめて控除する方が良いでしょうか。
回答: 社会保険料は、被保険者資格を取得した月から、喪失した月の前月までの分について月単位で納付します。
事業主は、被保険者の負担すべき前月の保険料を報酬から控除できます。控除できるのは、原則として前月分の保険料に限られます。
休職中の保険料を事業主が立て替えた場合、その回収方法は就業規則等で決めることとなります。
休職中に立て替えた保険料を賞与から一方的に控除することは、労働基準法第24条「賃金の全額払」の原則に違反します。
控除する場合、労使協定を締結したうえで、控除の対象となる具体的な項目を定めるべきでしょう。
一般に賞与は業績に左右されるうえ、休職期間によっては賞与が支給されないことも考えられますので、被保険者負担分については、その月ごとに会社に振り込んでもらう方がベターな選択となります。
精神疾患のため退職する従業員がいます。当面の生活を支えるためにも本人に対して障害厚生年金の受給を勧めようとしていますが、受給のために必要となる医師の診断書について、何か注意すべき点があれば教えてください。
回答: 障害年金を請求する際には、年金事務所から入手できる診断書を医師に記述してもらうことが必要となります。精神疾患の場合には専用の診断書があります。
症状の判断が容易でないことも多い精神疾患ですが、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」では、障害の程度を判断する際、「日常生活の能力」に着目し、身体的・精神的機能を考慮したうえで「社会的な適応性の程度によって判断するよう努める」として、就労者の場合は従事する仕事の内容に加え、職場での援助や他人との意思疎通の状況等を確認して能力を判断するよう示されています。
診断書の様式は、医学的な症状以外に「日常生活状況」の記述欄が大きく設けられています。
障害年金を請求するための診断書を作成する際には、請求者と医師が協力し的確かつ詳細な書面を作成することが何より大切です。
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